ハゲとの戦いは続く|育毛ハゲタカ記

 

さて、幸せな結婚をして私の毎日は満たされ始めました。

 

しかし、だからといって結婚でハゲは治りません。

 

頭は育毛剤の効果で薄くなりかけだった頃のように戻りつつありましたが、あくまでもそれは薄くなりかけ。

 

一般人のフサフサには遠く及びません。

 

ただ、精神的には強くなったように感じていました。

 

隣にそのままでいいと言ってくれる人が一人いるだけで、人はこれほどまでに自信を持てるということを知ったのです。

 

妻の薄毛に対する気遣い

 

一方、妻の方も多少私への気遣いがあるようでした。

 

食事の中に髪に良さそうなものがさりげなく入っていたり、風呂あがりは出来るだけ見ないようにしてくれたりしている気がします。

 

あからさまにされたら嫌なものですが、私の方から一度毛について触れてしまいましたので、こういった優しさは嬉しいものです。

 

本当なら笑いに出来てしまうような家庭が良いのでしょうが、それはなかなかに厳しいもの。

 

結局のところ、ハゲ道のゴールはいつになっても見えません。

 

私にとっては最愛の妻が美人であったことも一つの悩みの要因でしょう。

 

嬉しい悩みではあるのですが、一緒に連れだって買い物に行くだけで、どうしてあんなきれいな人が冴えないハゲと?そんな風に思われているように感じますし、そんなに年齢差がある訳でもないのに、

 

「お父様もご一緒にいかがですか?」

 

と時には勧誘を受ける始末。

 

こんな時に笑って受け流すのではなく、さらりと、

 

「主人なんです」

 

と言ってくれる妻には頭があがりません。

 

そんな彼女の為に出来ることと言えば、出来る限りの防御……つまりこれ以上ハゲない為の努力しかありません。

 

独り身の頃は飲んだ帰りなど、疲れてしまってサボることもあった頭皮ケアですが、今は怠ると気持ちが悪いくらいになりました。

 

今や家計から高い育毛剤費を捻出してもらっている訳ですから当然と言えば当然ですが、2ヶ月に一度の通院を止める訳にはいきません。

 

自己満足ではなく、家族の為にも育毛と縁を切る訳にはいかない、私はそう考えています。

 

なにしろ毛が無い時の自分の精神的落ち込みようといったらありませんから。

 

ハゲで鬱にでもなってしまったとしたら元も子もないのです。

 

う、生まれたぁ〜。娘誕生!

 

ハゲとの戦いは続く|育毛ハゲタカ記

 

そうこうしているうちに、結婚して1年半が経ちました。

 

そんなある日です。

 

妻がどうにも浮かない顔でため息をついています。

 

「話があるんだけど……」

 

まさか、と思いました。

 

身分不相応な妻からの三行半がとうとう来たのではと身構えた私に、彼女は小さく言いました。

 

「妊娠したみたいなの」

 

「へ?」

 

「だから気持ちが悪くて……」

 

予想外の言葉に思わずまぬけな返事になってしまいました。

 

いつかは欲しいと思っていた子供。

 

けれど焦っていた訳ではありませんでしたので、突然の告白に目を白黒するばかりです。

 

少しの間が空いて、

 

「もちろん何もしなくていいよ。食事くらい買ってくるし、家事なら手伝うから」

 

とやる気をみせます。

 

この私がとうとう父親になるのです。

 

嬉しい気持ちが半分、そして気になることが半分。

 

はい、気になるのはもしこのハゲが子供に遺伝したらどうしよう……ということ。

 

よりによって美女と野獣夫婦ですから、私に似たなんてことになれば子供から嫌われてしまうかもしれません。

 

「ママ似が良かった〜」

 

子供にそんな風に言われたという話はよく聞きますし、これまでは私も笑って聞いていました。

 

が、今日からは違います。

 

そんなのは絶対に困るんです。

 

ハゲだって良いパパになりたいのです。

 

 

それからというものの、一緒に病院に行ける時には付き合い、無理な時には妻からもらうエコー写真を穴が開くほど凝視したのは言うまでもありません。

 

赤ちゃんなら毛が生えていなくても当たり前ではありますが、私に似ているかどうかがとにかく気になって仕方が無かったのです。

 

「まだ性別も分からないのに」

 

妻はそういって笑いますが、はたから見れば何が映っているのか謎の写真の中に、妻の面影を探します。

 

そして、ちょっとでも口元が似ているのでは?鼻の高いのは妻似では?と一人喜ぶ私でした。

 

ちなみに、子供の性別はあえて聞きませんでした。

 

生まれてからのお楽しみ。

 

知ってしまえば余計な心配ごとが増えてしまいます。

 

 

 

お腹をさすり、声をかけているうちに十月十日はあっという間に過ぎて行き、いざお産のタイミング。

 

仕事を早くあがらせてもらい病院に駆けつけると、そこには新生児室ですやすやと眠るわが子の姿がありました。

 

目はつむっていましたが、間違いなく妻によく似た赤ちゃんです。

 

性別は女の子。

 

男でなくてほっとしたのもつかの間、寝ているだけのわが子がすでに可愛くてたまりません。

 

この子が思春期になったときに父の髪のことで悩まぬよう、もっと頑張るぞと決意を新たにしたのでした。

 

 

 

・髪の事を気にしてないわけではない

 

ハゲとの戦いは続く|育毛ハゲタカ記

 

30代なり、父親になったことで、髪について私の中である程度は達観してきたように思います。

 

ただし、ゼロになったかと言われると、それはまた別の話です。

 

特に気になるのが家族写真。

 

年の差婚なんていくらでもありますが、年の差婚でないのにそう見られてしまう私たち家族。

 

娘が0歳の時から、私の顔ではなく少し上の辺りをじっと見つめているだけで、他の人と違うと思っているのでは?とドキドキしてしまったりするのは日常茶飯事です。

 

これから幼稚園なんかに行くようになれば、他の父親と接する機会も増え、その差を疑問に思う日が来るかもしれません。

 

昔言われた子供からのきつい言葉が蘇ります。

 

そうでなくとも、娘が生まれてからは彼女中心の生活に変わりました。

 

休日に出かける場所と言えば、ファミリー向けのレストランやショッピングモール、公園など。

 

そこには若い父親がたくさん来ています。

 

いや、そう見えるだけで、ちょっと話をしてみると同じ世代だったなんてことはざらでした。

 

彼らのように若い服を着たとしたら、余計に格差が広がるのは目に見えています。

 

学生時代ほどではありませんが、まだまだ髪とのあれこれは続いていくんだなあと漠然と感じるのです。

 

 

そんなことを考えている間にも娘の成長は止まってくれません。

 

ある日、テレビから「ハゲ」という言葉が聞こえてきました。

 

それはお笑い芸人のツッコミで、

 

「ハゲがなにいってんねん!」

 

のような一言だったのですが、言葉を覚えたててなんでも吸収したい盛りの娘は当然食いついてしまいました。

 

「パパ、ハゲってなに?」

 

「……さあ」

 

今はこれで済みますが、こんなのは時間の問題。

 

誠実に髪の毛が少ない人のことだと言ってやれない情けない父親ですが、これでも昔を思えばちゃんと生えたのですから良しにしましょう。

 

 

ハゲの二文字に敏感に反応してしまうのはもう一生の事でしょうから、せめてもう少し堂々としていられるよう、強い心の持ち主でいようと誓うのでした。

 

毛の多さより、心の大きさを大切に。

 

負け犬の遠吠えに聞こえるかもしれませんが、これが若い頃から薄毛で悩んでいた私が出した結論のようなものです。

 

 

「ハゲタカ組長」

 

今だ仲間からはそう呼ばれている私。

 

そう、未来に向かってまだまだ毛との物語は続いていくのです。

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